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桜並木を見おろして【ARS・O】

第7章 桜月夜

「でも俺、気が向いたら遠方にもふらっと写生に行くし、アトリエにこもったら帰らない夜もあった。もちろん、その都度きちんと連絡したよ。」

風が吹く。

桜の花を揺らし、私の髪をなびかせる。

「結婚生活は長くは続かなかったよ。彼女から出ていったんだ。」

風が冷たい。

私の手足をじんじん冷やしていく。

「別れ際に言われたよ。“結婚してからの方がさみしかった”って。」

大野さんは、自嘲気味に笑った。

「俺の心がどこ見てるのかわからないから不安で、だから結婚したかったけど結婚しても結局どこ見てるのかわからなかったんだって。」

大野さんは、あはは…、と声を上げて笑った。

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