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桜並木を見おろして【ARS・O】

第8章 桜並木を見おろして

「俺、小春さんにモデルしてもらって、あんなに世話になったのに、何にもお礼してなくて。」

「お礼なんて…。」

4月の春の風は強い。

大野さんの髪を掻き乱して吹き抜けていく。

「小春さんがこの桜並木が見たいって言ってたのが、ずっと気になってたんだ。東京に帰ってからも…。」

「大野さん…。」

屋上には誰もいない。

静かな時間。

時おり、鳥の鳴く声が聞こえる。

風が頬をなでる。

太陽がまぶしいくらい降り注ぐ。

しばらく二人で桜並木を見ていた。

満開の桜はずっと続く。

川沿いの道は、嵐山へ向かう観光客で渋滞中。

この屋上は、そんな世間とは別世界で。

二人で桜並木を見ていた。

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