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桜並木を見おろして【ARS・O】

第9章 小春食堂

「その、『大野さん』って、なんとかならねぇかな?」

「え?」

私は、訳がわからなくて、キョトンとした。

「『大野さん』って、堅苦しくてさ…。『智』でいいよ。」

「さっ、さっ、さと…?」

大野さんは、割りばしをパチンと割ると手を合わせて味噌汁に口をつけた。

「俺も、『小春』って呼んでいい?」

私は、あんぐりと開いた口が閉まらなかった。

「あっ、ごめん!いきなり馴れ馴れしいよね!ごめん!」

大野さんは、耳まで赤くしてご飯をかきこんだ。

ご飯粒が気管に入ったようで、盛大にむせた。

私は、コップに水を注ぎ大野さんに差し出した。

「大丈夫?智…さん。」

大野さんは、目をドングリのように見開いた。

そして、やわらかく笑った。

「あんがと…。でもやっぱり『さん』はなくならねぇんだな。」

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