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第11章 交霊

俺は好奇心から事務所へ戻ろうとビルの階段を音を立てないように気を張って上がる。

だからと言って鍵が閉まっているかもしれないし、所長に感付かれるかもしれない。

一か八かの賭けである。

しかし、古いビルの階段は結構急で音を立てない様に慎重に上っているとキツイ。

それでも俺は、何とか階段を登り切って事務所の扉の前に立つ。

いつもなら、ここで所長かハナさんが扉を開けてくれるのだが、今はその気配はない。

俺は、意を決してドアノブに手を掛け回してみた。

”カチャ”

(おおっ!!開いてるじゃん!)

俺はゆっくりと音を立てないように扉を開いていくと、目の前に腕を組んだハナさんが立って俺を見下ろしていた。

ううっ…。

やっぱバレてたのか。

「戻って来ると思ってたよ。入んな」

そう言うとハナさんは顎で事務所の奥を示した。

俺はハナさんの後を追って中へと入る。

「俺とハナのキスシーンでも拝みに戻って来たのか?残念だったな」

そう言って所長が笑っている。

あれ?

もう霊は成仏しちゃったの?

俺がそう思っていると、所長が『まだ俺の中に居るよ』と答えた。

「でも、消えるのも時間の問題。俺の中に居ると、成仏じゃなくて消滅する」

所長は事も無げにそう言うが、それって可哀想なんじゃ…?

「ホント、キミはお優しいねぇ?お友達を苦しめてたヤツだよ?それに同情すんの?」

呆れた様に所長がそう言った。

「それはそうですけど…。その人達だって好きでそうなった訳じゃないんでしょう?それに、その人達に話を聞くんじゃないんですか?」

俺はちょっとムッとして言う。

そんな人を『御人好し』みたいに。

「御人好しじゃなかったら、何て言うんだよ?まぁ、いいや。聞きたい事は概ね分かったし」

「えっ?もう聞いたんですか?」

「あ━…何て言うかさ…。彼女達を自分の中に入れた時に彼女達の『想い』とか『記憶』みたいなのを感じたんだよね」

「それで、彼女達は何で鈴木に憑りついたんですか?」

「まぁ、単純に彼が放置したせいで、命を落とす事になったからって事らしい」

「やっぱり…。でも、本当に悪いのはアプリを運営している奴らなのに…」

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