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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第1章 友達でいたいのに


「あ。ごめん…」

A組の靴箱は、私たちがふさいでいる通路の向こうだった。渡辺くんは長身を折り曲げて、下の段から靴を取り出した。
肩には甲斐と同じ、名前の入った野球部のバッグを掛けている。

「…何か用?」

見られていることに気づいた渡辺くんが、また不機嫌な顔で言う。

「ううん。…あ、夏休みって、練習は午前?」
「そうだけど」

その時、救世主の如く甲斐が現れた。

「あ、千咲と山崎、帰んの?」
「うん。千咲は明日から補習だけどね」
「ちょ、美帆言わないでよっ」

甲斐がマジでー!千咲補習?!と言っている。
コンバースのワンスターを床に落として、甲斐は足を突っ込んだ。
昨日の日曜日、決勝戦で負けた野球部は甲子園行きを逃したけれど、一、二年生はもう秋の大会に向けて新チームでの士気が上がり、やる気に満ちている。甲斐もそのひとりだ。
決勝戦は球場まで応援に行った。甲斐も渡辺くんもスタンドにいた。
試合は迫力そのもので、前半は投手戦で、どちらも無得点のまま進んだ。後半は一方に点が入れば他方が返す。そして9回の裏を守りきれず、市高は1点に悔し涙を流した。相手は私学の甲子園常連校だった。
正直、あんなに感動するとは思っていなかった。美帆は最後、泣いていた。
来年の、再来年の甲斐がそこにいるのかと思うと、私はドキドキが止まらなかった。

「っし、広明、やるか」
「おうっ!じゃあな、千咲、山崎!」

渡辺くんも、そのひとりのようだ。
愛想のない不機嫌な子だと思っていたけど、甲斐相手ではどうやら違うみたい。
ピッチングの真似事をした甲斐に、全っ然、と言いながら渡辺くんは笑っていた。
…笑うんだ。そう。甲斐が相手だと、笑う。

「なに見とれてんのっ」

美帆がつついた。
でも、それが甲斐ではなく渡辺くんだとは言えなかった。

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