彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~
第1章 友達でいたいのに
補習は、苦痛そのものだった。山のように
課題は出るし、予習して行かなければ答えられない問題を出されるし、こんなに苦労するなら普段から勉強しておけば良かった、などと当たり前のことを思う。
でも、グラウンドの見える窓際に座るために毎日早く家を出た。2階の教室からは、野球部の練習がよく見えるからだ。
午前中頑張れば、練習終わりの甲斐と少しだけ話すことができた。
「かーいっ!」
着替えてグラウンドで遊んでいる部員の中に、
甲斐を見つけた。真っ黒に日焼けして誰が誰だかわからない。でも甲斐だけは分かる。
「おー!千咲、補習ご苦労っ」
「大きな声で言わんでっ!」
「ごめんごめん!なあ、今日かき氷行かん?」
「行く!」
「はは、即答!門のとこで待ってて。すぐ行くから」
やった!甲斐とデートだ!
舞い上がった瞬間、押していた自転車がフェンスにぶつかった。
慌てて自転車を起こし、正門に向かった。
体育館からは、バスケ部の声とキュッとバッシュの鳴る音が聞こえる。音楽室からはブラスバンドの練習する音が聞こえる。
普段の放課後と、聞こえる音は同じなのに夏休みであるだけで景色は違って見える。
いつもより短くした制服のスカートや、荷物が少ないから、小さい鞄を持つことが少しだけ心を浮き足立たせた。
学校の帰りに、好きな人と寄り道をすることも。
門の前に自転車を止めて、荷台に座った。
鬱蒼とした木々のあいだから細く届く光に、手を伸ばした。その光が、ちょうど左手の薬指に当たるように手を動かす。
「…何してんの」
すぐ隣で、ひとりごとのようにつぶやいたのは甲斐ではなく、渡辺くんだった。
「何が見えんの」
渡辺くんは私と同じように左手を頭上にかざしている。
「ねえ、何なん。いまの」
びっくりするくらい食いついてきた。何…って
好きな人から指輪をプレゼントされる妄想、なんて死んでも答えられない。
「な、何でもないよ。まぶしいなーって思って」
「…ふうん。変なの」
「も、もう帰るの?帰って何するの?」
これ以上詮索されたくなくて、聞きたくもない質問をした。渡辺くんが帰って何をしようが知ったこっちゃない。
課題は出るし、予習して行かなければ答えられない問題を出されるし、こんなに苦労するなら普段から勉強しておけば良かった、などと当たり前のことを思う。
でも、グラウンドの見える窓際に座るために毎日早く家を出た。2階の教室からは、野球部の練習がよく見えるからだ。
午前中頑張れば、練習終わりの甲斐と少しだけ話すことができた。
「かーいっ!」
着替えてグラウンドで遊んでいる部員の中に、
甲斐を見つけた。真っ黒に日焼けして誰が誰だかわからない。でも甲斐だけは分かる。
「おー!千咲、補習ご苦労っ」
「大きな声で言わんでっ!」
「ごめんごめん!なあ、今日かき氷行かん?」
「行く!」
「はは、即答!門のとこで待ってて。すぐ行くから」
やった!甲斐とデートだ!
舞い上がった瞬間、押していた自転車がフェンスにぶつかった。
慌てて自転車を起こし、正門に向かった。
体育館からは、バスケ部の声とキュッとバッシュの鳴る音が聞こえる。音楽室からはブラスバンドの練習する音が聞こえる。
普段の放課後と、聞こえる音は同じなのに夏休みであるだけで景色は違って見える。
いつもより短くした制服のスカートや、荷物が少ないから、小さい鞄を持つことが少しだけ心を浮き足立たせた。
学校の帰りに、好きな人と寄り道をすることも。
門の前に自転車を止めて、荷台に座った。
鬱蒼とした木々のあいだから細く届く光に、手を伸ばした。その光が、ちょうど左手の薬指に当たるように手を動かす。
「…何してんの」
すぐ隣で、ひとりごとのようにつぶやいたのは甲斐ではなく、渡辺くんだった。
「何が見えんの」
渡辺くんは私と同じように左手を頭上にかざしている。
「ねえ、何なん。いまの」
びっくりするくらい食いついてきた。何…って
好きな人から指輪をプレゼントされる妄想、なんて死んでも答えられない。
「な、何でもないよ。まぶしいなーって思って」
「…ふうん。変なの」
「も、もう帰るの?帰って何するの?」
これ以上詮索されたくなくて、聞きたくもない質問をした。渡辺くんが帰って何をしようが知ったこっちゃない。