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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第1章 友達でいたいのに


「勉強」

は…勉強ね。しかも普通に答えた。やっぱり理数科の人は違うよね。

「彼氏、もうすぐ来るよ。んじゃ」

そう言って渡辺くんは、左手を挙げて自転車を走らせた。

「か、彼氏じゃないよ!」

その背中に叫ぶと、キッとブレーキを鳴らして、渡辺くんは振り返った。

「…どっちでもいいけど。じゃあな」

何なの。
完全にバカにされている気がした。無表情で、横柄で、冷酷。変わり者。なんであんなのと甲斐がバッテリーなんだろう。

「おれ、マンゴーヨーグルトかき氷。千咲は?」
「…んー、迷う…」
「これは?アップルキャラメリゼかき氷。半分食べてやるよ」
「え、なんで?全部食べるよ」
「なんだ。ちょっと食べたかったのに」

1学期の終わりに、ふとかき氷が食べたいという話になり私がこのお店を甲斐に教えたのだ。おしゃれなカフェっぽくて、来るだけでデート気分満開だ。
美帆と三人で一度来たが、二人で来るのは初めてだった。

「補習どうだった?」
「しんどかった。もう絶対いやだ」
「そんな大変だったんだ?」
「大変だよ。これからはちゃんと勉強するわ」
「…そーいや、さっき塔也と何話してた?」

市高野球部の髪型は、いわゆる野球少年っぽくはなく、みんな少しだけ髪を伸ばしている。甲斐も高校に入ってから髪を伸ばした。帽子の跡がぐるっと線になっている。
運ばれてきた、マンゴーヨーグルトかき氷のマンゴーを指で挟んで口に入れてから、甲斐はスプーンを持ってフワフワの氷をすくった。
甲斐の指って、こんなに長かったっけ?
ここのかき氷は、縁日のようなシロップだけがかかったかき氷ではなく、フルーツが乗っていたりしてまるでパフェのようだ。

「ちょっと感じ悪かった。帰って勉強するんだって」
「塔也、ちょっと女の子には無愛想だからな。けどあいつモテんだよ」
「うっそ!?」
「マジマジ。彼女いるし」

それは十分、驚くに値した。渡辺くんに、彼女!

「誰?って聞いてもわかんないか」
「いや、千咲の知ってる人。マネージャーの住友先輩。しかも向こうから」
「へー…」

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