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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第1章 友達でいたいのに


「なんか、野球の話ばっかりしてるな、おれ」

甲斐が、ブランコに座ったまま体を折り曲げた。
Tシャツ越しに、背骨のかたちが見えた。ぽこっ、ぽこっと小さな山。…広い背中。

「千咲も何かしゃべって」

そのままの姿勢で、頭を上げて甲斐が言った。

「…初めてメールくれた。さっき」
「え?そうだっけ?」

ジーンズのポケットから携帯を取り出して、
メールをチェックしている。大きな手の中で
携帯がピッピッと音をたてた。

「…本当だ。1回も送信してない」
「でしょ?」
「でもさ…いや、何でもない」
「えー、なに。気になる」

甲斐は携帯をポケットにしまった。ストラップも何もついていない、青い携帯。

「んじゃ、おれ行くわ。今日は洗濯物取り入れ当番」
「買い物より楽だよね?」
「違うよ、取り入れて畳んで、仕舞うまで!」

日焼けした野球少年が、洗濯物をたたむ姿を
想像すると、何だかそのミスマッチ感がたまらなかった。

「甲斐、メールくれてありがと」
「ん。じゃあな、また」

公園を出て、甲斐とは逆方向に自転車をこぎだそうとした時だった。

「メール…1回も送信したことなかったけど、全部未送信のとこにあった!さっき言いかけてたの、そういうことだから!」

『未送信のとこ』…。

甲斐の後ろ姿はあっという間に小さくなっていった。
『未送信のとこ』には、どんなメールがあったの?私は、ずっと甲斐に聞くことができなかった。

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