彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~
第1章 友達でいたいのに
好きすぎる。
心臓がドキドキしすぎる。
こんなに好きな人と、いまこうしていることに
普通でいられない。
「甲斐っ!あの…っ、あのね」
「あ!塔也と住友先輩だ」
甲斐が叫んで指差した方向を見ると、フェンスの向こうを、二人が歩いているのが見えた。
「うわ…あいつら、手つないでる」
見ているこっちが照れるくらい、二人は恋人同士に見えた。年齢よりも上に見える二人だから、違和感もない。
「渡辺くんって、ああいうことするんだね」
「ん?意外?」
「うん。かなりね」
私の中での渡辺くんは、近寄りがたいくらいにクールだ。しかも、まだ印象はよくないまま。そんなことは渡辺くんにとって、どっちでもいいんだろうけど。
「千咲は、ああいうことしたことある?」
「え?」
「男と、手つないで歩くとか…」
「ないないない!ないよ」
びっくりして、不自然な否定をしてしまった。まさか。彼氏いない歴15年だよ。
「…したいと思うやつは、いる?」
いるよ。目の前に。甲斐だよ。
「うん…いる」
「そっか。そうだよな」
甲斐だよ。
甲斐と、あんなふうに歩きたいよ。
大好きな、甲斐と。
「あ、今日」
「ん?」
「神社の夏祭りだ。川原で花火もあがるよな」
そういえば、浴衣を着た人がさっきから神社の方に向かっている。渡辺くんたちも、お祭りに行くんだ。
「行こう、おれらも」
「あ。行く!」
甲斐は言うより早く私の手をとり、ベンチから立ち上がった。
手…。
右手が、しっかりと甲斐の左手につながれていた。