彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~
第1章 友達でいたいのに
薄暗がりの中、神社に続く砂利道をふたりとも黙って歩いた。私は、つないだ手に意識が集中しすぎて、話せたとしてもうまく会話にならなかっただろう。
人の声や、お囃子に混じって甲斐が耳の側で何か言った。
「迷子になるなよ」
私は、うん、とうなずいた。でもずっと甲斐と手をつないでいるから、迷いようがないんだけど。
「花火のあがるほう、行ってみよう」
「行く!」
「千咲っていつも全力で『行く!』って言うよな」
甲斐が笑いながら、ぎゅ、っとつないだ手に力が込めた気がした。
しばらく歩いて、立ち止まった甲斐の隣に並ぶと、中学の時よりずっと身長が伸びていた。
見上げると、右斜め上から私を見ていた。甲斐は、いくつもの笑顔を持っている。私は、甲斐の笑顔の種類をちゃんと見分けられる自信がある。いまの笑顔は、私だけに向けられた笑顔、だと思いたい。
「ここ、座ろ」
川原の土手にふたり並んで座ると、ちょうど最初の花火があがった。一瞬あかるくなって、甲斐の横顔を照らした。
「ひさしぶりだ、花火見るの」
「そうなの?私、毎年見てるよ」
「去年は合宿中だったし、その前は…何だっけな…まあいいや」
最後はひとりごとみたいに、小さな声になって、次の花火の音にかき消された、
「あっ、のぞみちゃんだ」
少し前の方に、私たちと同じクラスの女の子が見えた。隣には男の子がいる。
「真島の隣…塔也のクラスのやつだ」
「へー、1年生なんだ。彼氏かな」
「あいつ、他中だったけどめっちゃ走るの速くてさ、記録持ってるらしい」
紺色のポロシャツの背中が見えた。
「へー。陸上部?」
「違う。桐野がめっちゃ残念がってた」
「もったいないね」
いいなあ、彼氏と花火か。美帆も今日は永田先輩と来ているかも。
「私が甲斐と来ていること、誰かに見られたら、付き合ってると思われるかな」
「千咲は、困る?」
「…どうだろ」
「だって、いつも教室で『千咲』って呼ぶなって言ってんじゃん」
「あー…あれは」
「あれは結構傷つく」
また、花火が大きな音をたててあがった。『結構傷つく』と言われたことに対して、何も言えなかった。
人の声や、お囃子に混じって甲斐が耳の側で何か言った。
「迷子になるなよ」
私は、うん、とうなずいた。でもずっと甲斐と手をつないでいるから、迷いようがないんだけど。
「花火のあがるほう、行ってみよう」
「行く!」
「千咲っていつも全力で『行く!』って言うよな」
甲斐が笑いながら、ぎゅ、っとつないだ手に力が込めた気がした。
しばらく歩いて、立ち止まった甲斐の隣に並ぶと、中学の時よりずっと身長が伸びていた。
見上げると、右斜め上から私を見ていた。甲斐は、いくつもの笑顔を持っている。私は、甲斐の笑顔の種類をちゃんと見分けられる自信がある。いまの笑顔は、私だけに向けられた笑顔、だと思いたい。
「ここ、座ろ」
川原の土手にふたり並んで座ると、ちょうど最初の花火があがった。一瞬あかるくなって、甲斐の横顔を照らした。
「ひさしぶりだ、花火見るの」
「そうなの?私、毎年見てるよ」
「去年は合宿中だったし、その前は…何だっけな…まあいいや」
最後はひとりごとみたいに、小さな声になって、次の花火の音にかき消された、
「あっ、のぞみちゃんだ」
少し前の方に、私たちと同じクラスの女の子が見えた。隣には男の子がいる。
「真島の隣…塔也のクラスのやつだ」
「へー、1年生なんだ。彼氏かな」
「あいつ、他中だったけどめっちゃ走るの速くてさ、記録持ってるらしい」
紺色のポロシャツの背中が見えた。
「へー。陸上部?」
「違う。桐野がめっちゃ残念がってた」
「もったいないね」
いいなあ、彼氏と花火か。美帆も今日は永田先輩と来ているかも。
「私が甲斐と来ていること、誰かに見られたら、付き合ってると思われるかな」
「千咲は、困る?」
「…どうだろ」
「だって、いつも教室で『千咲』って呼ぶなって言ってんじゃん」
「あー…あれは」
「あれは結構傷つく」
また、花火が大きな音をたててあがった。『結構傷つく』と言われたことに対して、何も言えなかった。