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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第1章 友達でいたいのに


「塔也、来てなかった?」
「あ、うん。来てた。現国の教科書忘れたからって…」
「で、どうした?」
「私の、貸したよ」
「…ふうん」

それだけ言って甲斐は教室を出ていった。どうしたの?何かあったの?って聞きたい。でもただの友達だから聞けない。だって、純粋な友達じゃないもん。私は、甲斐と同じ気持ちではないから。
手を伸ばして、触れたいと思っているから。
次の授業が始まっても甲斐は帰ってこなかった。私が知る限り、初めて甲斐は授業をさぼった。
授業が終わると、すぐに渡辺くんが教科書を返しにきた。いやだけど、聞きたい。

「ねえ、甲斐どうしたの」
「…だから、自分で聞けよ。あ、教科書サンキューな」
「いないから聞いてんの」
「エラーだよ」
「エラー?昨日の試合?」
「あいつ、試合出たんだ。センターで。で、平凡なフライなのに落として得点入れられた。結局それで流れが変わって」

甲斐が。エラー。

「…責任感じてんのかもな」
「そう…」

野球のことで落ち込んでるなら、なおさら声のかけようがない。私には立ち入れない世界だから。

「けどまあ、野瀬が何か言ってやれば立ち直るんじゃない?」
「…あのさ」
「え?」
「何で渡辺くんはそうなの」
「そう?そうってどういうこと?」

私の言い方が気に入らなかったのか、一歩前に出てきた。私だって、気に入らない。渡辺くんの言い方。

「ちょ、千咲やめな」

そばで見ていた美帆が止めに入った。

「親友でしょ?バッテリーだったんでしょ?甲斐が信頼してるのは、あんたでしょ?なんで何も言ってあげないの?」
「…思ってたより、アツいんだな、おまえ」
「はぁっ?!」

鼻で笑われた。そりゃあ、それだけ冷静ならダブルエースなんて呼ばれるのも、わかる。

「授業、さぼんなって言っとけ」

そう言って渡辺くんは教室を出た。
ムカつく。大っ嫌い。
涙が出た。
いまどこかでひとり、自分のエラーに後悔している甲斐を思うと、涙が出た。

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