彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~
第2章 友達でいたかった
「野瀬」
声をかけると、千咲が振り返った。いつも、僕が声をかけると千咲は不機嫌な顔をして返事する。でも今日は違った。
「あ、渡辺くん。待ってたよ。花束作ってあるよ」
千咲は店の奥から二種類の花束を出してきた。
花の名前なんか、全くと言っていいほどわからない。でも千咲の作ってくれたそれらは、派手さはないけれど可憐で、とても奈緒子のイメージに合っていた。
「うわ…すげえな。わかんねーけど、何て言うんだろ…うん。いい」
「…なんか上からだね。いつもながら。でもほめられた!」
そう言いながら、千咲はその出来に満足そうだった。
「こっちはチューリップを中心に可愛らしくまとめたんだよ。で、これはスイートピー。ま、住友さんをイメージしたらどっちもかわいい系になったんだけどね」
「かわいい系ね…あいつ意外としっかりしてるよ」
「イメージだよ、イメージ。それは渡辺くんしか知らない住友さんでしょ」
僕しか知らない…。
「じゃあ、こっち、もらう」
僕はチューリップのほうを指した。
「はい。ありがとうございます!」
千咲はその花束を紙のバッグに入れて手渡してくれた。あ、スイートピーもおまけ、と言いながら。
「あのさ、」
「ん?」
丸くて茶色い目は、僕の記憶のそれと何も変わらない。
「ひまわりの季節になったら、また買いにくるよ」
「好きなの?ひまわり。この間も言ってた」
「…この街を好きになったきっかけだからかな」
「そっか」
「うん。じゃあな、ありがとう」
僕はひんやりする風のなか、18歳になった奈緒子に誕生日の花束を渡しに向かう。
好きにならなければ。
奈緒子のことを、奈緒子が想ってくれるのと同じ大きさで、好きにならなければ。
そうでないと、簡単に気持ちは傾いでしまう。ひまわりの笑顔に。