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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第2章 友達でいたかった

奈緒子の家の近くの公園で待ち合わせることになった。花束は紙袋に入っていて、持っていてもそう目立つわけではないけれど、何となく落ち着かなかった。

「とうやーっ!」

走らなくてもいいのに、奈緒子は元陸上部の習性なのか、待ち合わせ場所で僕を見つけると走ってくる。
肩で息をしながら、マネージャーをしているときとは全く違う顔をする。

「お待たせ!」
「いや、いま来たよ。誕生日、おめでとう」

僕は花束を、奈緒子の目の前に差し出した。それから、近所の神社で買った合格祈願の御守とペンケースの入った包み。

「わあ…花束、塔也が買いに行ってくれたの?」
「うん、そうだよ」
「ありがとう…!こっちも、開けていい?」
「うん。あ、座ろう」

ベンチを指して言うと、奈緒子は何かな、と言って包みを上から下から見ながら座った。

「ごめんね、私がこの間言ったから、誕生日だって…」
「おれの方こそ、ごめん。聞いてやれなくて…それから、メールとか電話も…」
「わあ、かわいい!明日から学校に持っていくね。御守りも!」

奈緒子は僕の言葉を遮って、プレゼントを喜んだ。メールや電話が少ないことを、本当は気にしている。

「いいの、メールとか電話は。塔也は練習も勉強もあるし、私はこうやって塔也といるだけでうれしいから。プレゼント、ありがとう。大事にする」
「うん。おめでとう、18歳」
「塔也は来月だね、17歳」

奈緒子は、なんで僕だったんだろう。
聞いたことはない。聞くきっかけもない。高校に入ってすぐの練習試合のあと、手紙を渡された。試合になんかもちろん出ていなかったし、その頃はまともに奈緒子と話したこともなかった。ただのマネージャーの先輩だった。

「もうすぐ1年だね、付き合い始めて」
「そうだな」

何となく同じことを考えていたのだな、と思う。

「来年はどうしてるかな」
「…来年…?」

来年の今ごろは、最後の夏に向けて練習しているだろう。僕はエースのままだろうか。広明は?

「野球のこと考えてたでしょ?私たちのことじゃなくて」

奈緒子は、色素の薄い眉を下げて、小さく笑って僕の方をみた。花束を大切そうに抱えて。

「あ…うん、野球のこと」
「塔也は正直だね、ほんと。あ、でも来年の今ごろは一緒にいないかもね」

並んで座っていたベンチから立ち上がり、僕の前に立った。

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