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彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第1章 友達でいたいのに

新しい制服、新しい友達。
今日から高校生になる。結構頑張って勉強して
何とか合格した。

「…うす」
「あ、甲斐。おはよ。クラス発表、もう見てきた?」
「ああ。昨日練習の帰りにもう貼り出してあったから…体育館の入口。おれC組で千咲が…」
「ストーップ!言わないで!今から見に行くから!」
「…はいはい。じゃあな。あとで!」

もちろん、甲斐がこの高校を目指してると
知ったからなんだけど。
これから通う市立高校は、歴史と伝統のある、
文武両道を掲げる進学校だ。
難関の理数科と、競争率の高い英語科、そして
私と広明がこれから通う普通科がある。
中学時代、中の中だった私の成績ではきっと
入れなかっただろう。でもこの高校で
野球をやるのが夢だった甲斐は、私よりも
成績が悪かったにもかかわらず、猛勉強の末、
合格した。公立高校にはスポーツ推薦がない
から、受験するしかないのだ。
合格してすぐ、甲斐は野球部の練習に参加
し始めた。
中学の頃から強肩と打撃は誰にも負けなかった
甲斐。他県の私立強豪校からの誘いもあった
らしい。
でも敢えて勉強し、地元の高校に入ったのには
理由がある。

「千咲!クラス発表見た?」

後ろから肩をたたかれて振り返ると、美帆が
いた。

「同クラ!」
「え!ほんと?!まだ見てない」
「行こう行こう、甲斐も一緒だよ」
「やったー!楽しくなりそう」
「やっば、千咲、時間!」

早くに満開を迎えた今年の桜が、名残惜し
そうに残りわずかな花びらを手放した。
私たちは、その桜の木の下を希望に満ち溢れた
足取りで走ってゆく。
15歳の春は、しあわせでしかなかった。
これから始まる新しい生活に、ただ漠然とした
輝きだけを見ていた。
この時は、まだ何も知らなかった。
大切なことを見落としてしまうほど、まわりが
見えなくなるほど、誰かに心を奪われる恋が
あることなど、知らなかった。

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