テキストサイズ

彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~

第1章 友達でいたいのに

高校生活を始めるにあたって行われる一連の
行事が無事におわり、クラスの子たちのことも
何となくわかり始めた。
友達の友達とか、塾が同じだったとか、そんな
些細なつながりを必死に探して、仲良くなれ
そうか、同じグループになれそうかの心理戦が
繰り広げられる。
孤立することだけは、避けなければならない。
それがこの時期の最重要課題だ。

「いいよねー、男子は。面倒なこと考えてなさそで」

美帆と机をくっつけて、お弁当を食べる。
実は私たち、お互い以外に気の合う女子が
いそうにないのだ。

「…甲斐っていっつも集団作ってるよね」

美帆が、教室の真ん中にいる男子の方を見て
言った。その中心に甲斐がいる。

「野球つながりじゃない?たぶんあのへん、
シニアリーグあがり」
「あ、そっか」

甲斐のまわりは、いつも人が集まってきて
にぎやかだ。中学の時からずっとそうだ。
たぶん、もっと子どもの頃からかも知れない。
甲斐は、その中心で笑っていた。
いつも、心から楽しそうに笑っていた。
そんな甲斐を、気がつけば好きになっていた。
甲斐はどんなことも楽しむ才能を持っている。
あんなに辛くてしんどい野球の練習でさえも。

「あ。あの子、背の高い子かっこいい」
「え?どの子?」
「甲斐の左側にいる子」

食べ終わった小さなお弁当箱を、ハンカチで
花結びにしながら美帆が指差したのは、
渡辺くんだ。

「あ、ピッチャーの」
「げ。野球部?!」

渡辺くんは隣の中学出身だ。甲斐とは同じ
シニアリーグでこの3月まで野球をしていた。
キャッチャーの甲斐とは最高のバッテリーで、
その二人がまとめて市高に入ったから
ちょっとした話題になったらしい。
甲斐よりも背が高くて、細身。切れ長の目が
印象的で、無愛想だ。
それでどうして甲斐と気が合うのか不思議だ。
去年、試合後に甲斐に紹介されて少し話した
ことがあったけれど、あまりにも無愛想すぎて
内容は覚えていない。
もしかしたら、話してなんかいないのかも。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ