彩夏 ~君がいたから、あの夏は輝いていた~
第1章 友達でいたいのに
「なんか浮いてるよね、渡辺くん」
「ほんとほんと」
「…雰囲気が違うね」
「あ!先輩だよ、美帆!」
窓の外に、美帆の憧れの永田先輩が見えた。
実は中学3年間、美帆は先輩への想いを温め
続けてきたのだ。
晴れて同じ高校に入学したのだから、絶対に
告る!とその機会をうかがっている。
「えっ、ちょ、私いま髪型おかしくないよね!?」
「大丈夫だけど、たぶん先輩見てないよ、
美帆のほう」
「…だよねー…」
美帆は全然物怖じせず、明るい性格なのに
永田先輩のことに関しては全く別人になる。イライラするくらい、何もできなくなるのだ。
「ねえ、いつ告るの?早くしなきゃ、彼女とかできちゃうかもよ」
「んーん、…あと2キロ痩せたら?」
「え、まだそんなこと言ってる」
「千咲ー!」
その時甲斐が私を呼んだ。男子が女子を
呼び捨てにするとか、誤解されそうで大勢の
前ではイヤだってあれほど言ったのに!
「ちさ…野瀬さーん!ちょっとちょっと」
甲斐は思い出したのか、私を名字で呼んだ。
廊下に移動していた甲斐は窓から手招きした。
「なに?」
「覚えてんだろ?渡辺塔也。おれの相棒」
「ああ…うん。…おひさしぶりデス」
後半は渡辺くんに向けて言ったのに、反応が
ない。
誰だっけみたいな顔をして私を見ている。
やっぱり無愛想だ。
「おれと塔也で絶対全国制覇するから!な!」
甲斐は渡辺くんの背中をその大きな手でバシッ
と叩いた。
「相変わらず夢はデカいよね」
「あったりまえじゃん」
そんな私たちのやり取りを、渡辺くんはにこり
ともせずに聞いていた。
目に入ったクラス章は理数科であることを
あらわす、『A』だった。
へー、頭いいんだな。意外。
その時昼休みの終わりを告げるチャイムが
鳴った。廊下にいたみんながゾロゾロと教室に
入るなか、渡辺くんは渡り廊下の向こうの
理数科棟に帰っていった。