いつまでもここに居て
第14章 ※サングリアの深海魚[54]
「…潤?」
「ん?どしたの?」
「この魚見てよ、変な泳ぎ方してる」
「あ。ほんとだ」
「なんかマリオに出てきそう…ファイアーで行かないとキッついなあ…これ」
「あの…氷のヤツとか?」
「ああ…フリーザーだと上に上がるから邪魔かも…」
水槽を見ながらゲームの話。
そういえばしばらくニノがゲームをしている所を見ていない。
逆にニノが何でもかんでもやりすぎて自分のやることが無いぐらいだ。
「潤!次行こう!深海魚の所~」
引っ張られ、深海魚のエリアへ。
暗い深海をイメージしている水槽。
その中に1つ真っ赤な色の水槽を見つけた。
「うわ…目がギョロってしてる。見てると深海魚って俺みたいだなあ」
「なんで?」
「え、動かずまずはじっくり考える。暗闇の中でのんびりと地上に打ち上げられるのを待つんだよ」
「でもこんなニノは怖い顔してないよ」
「怖い顔…してると思う。
いつもプレッシャーとか…ニコニコしてるのが俺の仕事じゃん。
打ち上げられたらそりゃこうやって人気者だけどさ、
打ち上げられる前の深海魚はもっと怖い顔をしてると思うよ」
ニノから漏れた本音。弱音ともいうべきか。こんなに近い俺にも話さない本音。深海魚が自分に見えたその感想がついそうなってしまったんだね。
「深海魚は…深い海の中にいる。
深海には鉄だってぺちゃんこになるぐらい強い圧力があって、
それで形を形成させてるものもある。
打ち上げられたらドロドロになって地上じゃ生きていけない生き物だっている。
もし、ニノが深海魚って言うならニノは…深海のプレッシャーが心地いいんじゃない?」
「俺、プレッシャーって嫌いだよ。」
俺の言ったことに少しバツが悪そうな顔をした。
「プレッシャーって精神的な圧力だけじゃないと思うよ…?例えばさ」
そう言ってぎゅっとニノを抱きしめる。
「…深海魚は地上の強いプレッシャーには耐えられなかったんだろうけど…誰もいない深海の中の強いけど…優しい圧力は深海魚にとっては心地よかったんだと思うよ」
「なるほど…」
少し周りの視線が強くなった為、ぱっとニノから離れた。
胸のニノがいた部分が水族館の適温に一気に冷えていった。
けれど、ニノから何か重いものがなくなったようで笑顔が軽くなったのを見て心は暖かくなった。