いつまでもここに居て
第14章 ※サングリアの深海魚[54]
だが、青い海のようなシチュエーションの中はいつまでもふたりを夢の中にいさせてはくれない。
人魚姫や浦島太郎みたいに海の中では時間が遅くなるわけではなく、楽しい時間も辛い時間と同様の速さで駆け抜けていく。
ゲートを通り終わるとやはりそこは現実で、水族館の暗闇の中にいた俺達はキラキラと光るネオンの町という現実に起こされ、目を擦った。
「初めて外でキスしたね…」
車の中。ホテルに向かう車内で照れくさそうにニノが言った。
「うん。良かった?」
「びっくりしたけど…嬉しかった、」
「そっか。なら嬉しい、」
信号待ちでもう一度キスをした。
チリーン。
ふと後ろから鈴の音が聞こえた。
その時ブワッとふわりと笑うニノに興奮を覚え、車内の死角にニノを追いやり、深いキスをした。
「ふっ…んっ、は…じゅ…ん」
「ごめ…続きは後でね、」
ポンポンと頭を撫で、運転を再開した。
運転に集中していないと飲み込まれそうになった。
…あの水族館のように、ニノの深い海のような瞳に釘付けになってしまいそうだった。