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いつまでもここに居て

第5章 ひまわりの約束[21]


そう…確か僕は広島の一番大きな病院に転勤してきた。

そこから見える景色。
走るちんちん電車、楽しそうな声。
戦争なんて無いような…夢を見させてくる場所だった。


働き始めた日。それが僕の死ぬ1週間前だった。


ーーーーー


「先生。」
「ああ、診察だよね。今行くよ。」

看護師と廊下を歩いていく。
その時すれ違った人。
窓を見つめながら何かをスケッチしていた。
ザッザッと音を立てるそんな音が僕の足音と混ざりあっていて。

「あの子は…」
「智くんですばい、あの子はちーと病気でなあ、7歳の時からここが世界なんですよ、東京から来た先生は知らんよなあ…」
「へえ…」
窓から何が見えているんだろう。
窓先の世界を彼は知ってるんだろうか。

「まあ、行きましょう。今日も患者は多いですかんね!」
「はい!」
彼を気になっていても、迫り来る患者に揉まれて、見えなくなっていく。

真夜中診察がすべて終わり、消灯の時間。
廊下を歩いていると小さな光を見つけた。

入り口には…なんだろ、汚くなって見えないが智という字は認識できる。
ガラガラと音を立て戸を開けると、びっくりした表情で僕を見た…
「あ…すいません。」
「あ、大丈夫。なにしてたの?」
「…絵をかいていたんだ。ほら。」

そう見せてくれたのは向日葵の絵。
何枚もスケッチしているが、毎回毎回向日葵の向きとか、向日葵の奥にある景色とか。毎回違う。

「ひまわりか…綺麗だね。」
「そう。窓からひまわりが見えるんだよ。」
「そうなんだ…」
「外はどんな感じなの?俺さ、ずっとここに1人で、看護師とか医者も忙しそうにしてて、話しかけてくれるのは怒る時だけなんだ。前はしてくれていたんだよ。」

多分それは戦争のせい。智くんは今この病院を出れば戦争が起こっていることも知らない。
休憩中の診察室では、ラジオで戦時状況が発表されていて、そこには多くの患者が集まるのだが、智くんは1人で診察室まで歩けないから、聞いたこともないのだろう。

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