甘く、苦く
第66章 櫻葉 【帰り道】
帰り道が途中まで一緒。
だけど、シフトが同じなのは
一週間に一度。
その一度を、俺は大切にしてる。
年齢も違うし、住んでるとこも違う。
俺の方が年下だから、子供。
たったひとつ違うだけで、
全てが違う。
だって、櫻井さんには──……
櫻井さんには、彼女がいるから。
見ちゃったんだ、俺。
この前駅前で女の人と二人で
歩いてるところを。
見たことない表情を浮かべて
楽しそうに話してた。
少し茶色がかった
ストレートの綺麗な髪の毛。
多分、あの時の笑顔は
一生俺に向けられることのない笑み。
…俺が女じゃない限り、
見せてくれないよね……?
「相葉くん?」
「はっ!はい!?」
「ふふ。面白いなぁ。
またねって言った。」
「あっはいっ!
また!」
そのまま櫻井さんは
いつものガソリンスタンドの傍らを歩いてく。
そして、見えなくなっていった。
…変態みたいだけど
俺、見届けるの当たり前になっちゃってんだ。