甘く、苦く
第66章 櫻葉 【帰り道】
どんなに願っても、
俺はあの隣へ立つことは出来ない。
……この帰り道は、
一ヶ月前まで特別なものだった。
「櫻井さん──…」
会いたい。会いたい。
会いたくても、
会っちゃいけないんだ…。
「…なんだよ、相葉くんじゃん」
「っ、」
聞き覚えのある声に、
俺の背筋がぴんっと伸びた。
「髪の毛の色、戻しちゃったんだあ…
俺、あっちの方が
好きだったんだけどなぁ」
好き、とか軽々しく言わないでよ。
櫻井さんのせいで、
こっちがどれだけ迷惑したと思ってるの。
櫻井さんのせいで、
俺がどれだけ泣いたと思ってるの。
「…途中まで、一緒に帰ろーよ」
俺がなにも言わなかったからか
困ったように眉を下げていた。
「…櫻井さんっ、」
「ん?どうしたの?」
いつもの帰り道は──…
いつもに増して、
輝いていたんだ。