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甘く、苦く

第66章 櫻葉 【帰り道】






息を潜めて見送るのも
櫻井さんの事を想って泣くのも
もういやなんだ。

俺は…あの隣に立っていたい。


「俺、ほんとは、ずっと…ずっと、」


自分の声はひどく震えていて。

顔さえも見ることが
できずに、俯いたままだ。


顔も合わせられないなんて、
やっぱり俺は意気地無しだ。


…でももう。

この気持ちにはケジメを
つけなくちゃならないから…



「夏っ、くらいから、
櫻井さんのこと、好きで…っ


…バイト、始めたのも、
櫻井さん、目当てで…っ!」

「…ふふっ、そうだったんだぁ。
えらく不純な動機だねぇ…」

「っ…ごめんなさい!」

「ううん、いいよ。
正直、嬉しい、し…?
でも、俺……」

「わっ、わかってます!
彼女さんいるし。迷惑ですよね?」

「違うって。
俺も一緒に帰るの、
楽しみにしてたんだからね?

なのに急にやめるとか
ないでしょ?

ていうか、彼女ってなに?
そんなのいないしー」


唇を尖らせて、
子供みたいにぶーぶー言う。


「でも、…前に、女の人と
一緒に楽しそうに歩いてて…」

「妹でしょ、それ。
黒髪だったでしょ?」

「はい…」

「ほーら、妹じゃん。
…つーか、彼女出来ると思う?俺に」



胸がじんわりと温かくなっていき、
期待が膨らむ。

俺にも、可能性はあるってこと…?


あと、5センチだけ。


あと5センチ分の勇気を
俺にください。

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