甘く、苦く
第68章 櫻葉【snow flake】
「ね、もっとこっち寄って?」
「…ん、」
クリスマスツリーが良く見える所で
ふたり寄り添って座って。
手の中ですっかり冷え切った
コーヒーを握り締めて、
聞いてみた。
「…雅紀はっ、…なんで俺のこと、
好きに、なってくれたの……?」
「…え?
…んんー、なんでかなぁ。」
うーんうーんって唸って
閃いた!みたいな顔して。
「笑顔!」
「へ?」
笑顔…?
なんで笑顔?
「あのね、初めて見た時は、
ただ単に普通に可愛い顔立ち
してるなあって思ってたの。」
「か、かわっ…」
でもね、と雅紀が続ける。
「…可愛いだけじゃなくて
かっこいいとこもたくさんあるよ?
だけど…翔さんと一緒に
バイト始めてから、
接客する時の笑顔も、
俺と話してて笑ってくれる時の
笑顔も、全部全部、綺麗で…」
…そんなとこまで、
見ててくれたんだ。
そんなふうに思ったら、
胸がじんわりと温かくなってきた。
それから、すごく嬉しくて、
涙が溢れそうになる。
「それでね、笑顔が素敵な人だなって
ずっと思ってたの。
…怒られた時は
ちょっと怖かったけどね……」
って苦笑してから、
また俺の目をしっかり見た。
「…こんなに好きになったのは、
翔さんだけだよ。
一番だよ、翔さんが。
…だから、だからね。
ずっと一緒にいて欲しい。
ほんとにずっと──…
大切にするから…これからも一緒にいてね」
暗くてわからないのか、
俺の目からなにかが出てるからなのかは
わからないけれど、
雅紀の顔がうまく読み取れなかった。