甘く、苦く
第68章 櫻葉【snow flake】
〜♪
突如聞こえたそのメロディーにびっくりして、
唇が触れ合う寸前で止めてしまった。
「ご、ごめんっ、こんなとこで…」
「や、だい、じょうぶ…」
翔さんから視線を外せば、
賑やかな街が見えた。
…あ、そっか。
…人の存在をすっかり忘れて、
二人だけの世界に入り浸ってた。
「…ね、雅紀…」
くいっと服の袖を引っ張られた。
その方向を見れば、
瞳をさっきよりも潤ませて、
白い息を吐いている翔さんと
目が合っちゃって。
また、高鳴り出した胸が
苦しくなって。
「…っ、もう…!」
周りに人がいないことを確かめてから
翔さんの頬に手を添えて、
ちゅ、っと短いキスを一度だけした。
唇を離せば、
口を半開きにさせて
俺を見てる翔さん。
…あーっ…もう!
「そんな顔、他所でしちゃだめだから、」
「…ご、ごめっ──…」
もう一度だけ、
短いキスをして、
翔さんの手を取った。
「も、帰ろ!」
「…う、うん、」
微かに残る翔さんの唇の感触。
その余韻に浸りながら、
騒がしい街を通り抜けていった。