甘く、苦く
第73章 磁石 【move on now】session 5
「…ったた……」
「ごめん…」
申し訳なさそうに
カレーを口に運ぶ翔さん。
「んーん、別にいいよ。
ほら、早く食べちゃお?」
「ん…」
美味しいよって言いながら
食べてくれる翔さんの顔が
本当に好きで。
…幸せだなぁ、って
思いながら翔さんを見つめていた。
……ふふ、
カレー頬張りすぎ。
それに、口の端に
カレーついてるし。
…くふふ。
「…んぁ?
なに笑ってんだ?」
「くふふ、翔さん、
口にカレーついてる。
とってあげる。」
優しくティッシュで
口元を拭ってあげれば。
口を少し開いたまま静止した
翔さんがいた。
「…ぶふっ……間抜けな顔。
なーに、もう。」
俺がくすくす笑ってたら
翔さんは顔を赤くして
「急にっ…二宮がそんなことするから…」
「くふ、かーわいいとこあるね。」
俺が首を傾けてそう言えば
ますます赤くなる顔。
うるさいって言いながら
カレーをあっという間に平らげた。
「あー、早食いは体に悪いんだぞぅ。」
「知らねーっつーの。」
耳まで赤くさせて
翔さんがバスタオルを手に取る。
「…もうお風呂入るの?」
「だめ?」
「だめじゃ、ないけど…」
一緒に入りたい。
なんて年頃の男の子が←自分で言う
言えるわけないじゃん。
「…まだだめ。
お風呂沸いてな──…」
『お風呂が沸きました』
軽快なリズムと共に
聞こえたその音声。
…今日ほど機械に
苛立ちを覚えた日はないだろう。