甘く、苦く
第73章 磁石 【move on now】session 5
「?
なんだ?もう沸いたけど…」
「や、じゃなくてね!?
…そう!シャンプー詰め替えてないの!」
「それくらい俺がするから
いいよ?」
「ボディソープも!!」
「いや、だからそれくらい──…」
「とにかく!
まだ入っちゃだめ!」
「?なんだよ?」
困惑の表情を向けられ
自分でもバカみたいだと思う。
ガキだなあ、とか。
…ていうか翔さん、
鈍すぎるんだって。
「…あ、なに?
自分で食った皿は
洗ってけと?そういうことですか。」
「っ…ぁあう、そういうことだよ。」
焦ってしまって
変な声が出た。
…でもこれで
阻止できたかも…。
ガシャン
嫌な音がしたと思って
キッチンを見れば
「…二宮、ごめん……。
皿割れた…」
あぁ、そうだった。
この人、家事全般できないんだった…
それを忘れていた。
ふっと溜め息をつき
これを口実にできるじゃないか、なんて。
「バカだなぁ。もう。
ケガない?」
「ごめんな?
指、切らないようにな?」
「一番指切りそうな人に
言われても説得力ありませーん。
ほら、早く風呂入ってきちゃいなよ。」
……あ。
間違えた。
「うん、わかった。…そうする。」
あああ。
もう。
……仕方ないか。