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甘く、苦く

第74章 お山【miss your voice.】session 1






…あの声が忘れられない。

ずっと耳に残っている。

探したけど、いない。



…あの日、屋上で聞こえた声。

あれは風の気持ちいい秋の日だった。

その日も授業をサボろ──…


「ね、おーちゃん、帰ろ〜?」


…まただ。

俺が思い出そうとする度、
邪魔が入る。


「んー、わかった。」


リュックを掴んで
幼馴染みの雅紀の隣を歩く。


…誰なんだろう。

いつも考えるけど、
答えを見出すことはできない。

あれから合唱部も探したし、
軽音部も探した。


…それでも。

それでも彼はいなかった。


「おーちゃん、いつもに増して
ボーッとしてるけど、大丈夫?」

「あっ…うん、ヘーキヘーキ。」

「そう?それならいいけど…
風邪とか気を付けてね?
おーちゃん体弱いんだから…。」

「わかってるよー…」


…あの声。

もう一度聞きたいんだ。

もう一度聞けば、
なにかを思い出すかもしれない。


一瞬だけ見えた顔。
鮮明には思い出せない。

瞳は吸い込まれそうなくらい大きくて
リスのようにくりくりしていた。

髪の毛は少しだけ茶色がかっていて
さらさらとしていた。

身長は俺より高いけど
平均より低いくらい。


…なかでも印象強いのが、
あの大きな瞳。

吸い込まれるかと思った。



…でもどこかで、
見たことあるような顔。

それが誰かなんて、
わからないけれど…。


懐かしい──…気がした。

気がするだけなんだけど、それでも。

彼と少し近付けた気がして
嬉しかったんだ。

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