
甘く、苦く
第74章 お山【miss your voice.】session 1
「おーちゃん遅い~」
ぶーっと唇を尖らせて俺のことを見る。
ごめんごめんって言いながら、
傍らに投げ捨ててあった
リュックに教科書とノートを詰め込んだ。
「…なんか顔赤くない?」
「へ…?そ、そんなことないよーっ」
焦って顔を逸らしたからか、
余計怪しまれてしまった。
「む〜?なんかおかしくない?
まさかまさかの、告白とか?」
「っんなわけ…!」
「んふふ、」
楽しそうに笑いながら、
雅紀はニノの小さな手を
ぎゅっぎゅと握っている。
…やっぱり、ふたりは…
ぐっと唇を噛み締めて、
帰ろ、って言う。
そうしたらふたりは、
俺の両側を歩いてニヤニヤしてた。
「告白じゃないとすると、
失恋かなー?」
「っ…あほっ!違うわ!」
雅紀の横っ腹を軽く殴り、
そっぽを向いた。
「むぅ〜、ニノ、助けて〜」
「重いっ、やめろ〜っ!」
微笑ましい光景を見ながらも、
彼のことを考えていた。
…名前、聞きそびれちゃった…。
ふっと溜め息を吐いて、
先を行くふたりの後ろ姿を見つめた。
彼の息遣いとか、
指先、唇、瞳……。
全てが鮮明に思い出される度、
マンガとかでよくある
『かああ』
って効果音がつきそうなくらい
顔が熱くなった。
