
甘く、苦く
第74章 お山【miss your voice.】session 1
雅紀の腕をくいっと引いて、
雅紀を見上げる。
「おーちゃん?
どーしたの?」
「えっと、あの…
明日から、先に帰っていいよ」
「えー、なんでぇ?」
しまった。
理由を考えていなかった。
「あの、…そう!テスト!
テス勉そろそろしないと
まずいな~なんて…」
「じゃあ俺達も一緒に…」
「や、あの…」
「だめ…?」
犬みたいにじーっと見つめられ、
後ろではニノが俺を見つめる。
「あの、…俺、今回マジで頑張んないと
留年なんだ…」
……嘘だけど。
「え、そーなのっ!?
そりゃ大変だね…。
じゃあテスト終わってから、
一緒に帰ろーねっ!」
「うん、そーしよ。
約束。」
「うん♡約束ね。」
雅紀とニノとばいばいしたあと、
ちょっとした罪悪感に見舞われた。
…嘘、吐いちゃったよ。
ふぅっと溜め息を吐いてから、
雪の溶けた道を歩く。
「おい、」
「ひゃっ…」
急に肩を掴まれて、
変な声が出てしまった。
後ろを向けば…
優しい笑みを浮かべた彼がいた。
「へ!?えっ…」
「今の、友達…?」
耳元で、しかもあの甘い声で
囁かれちゃ、もうひとたまりもない。
頷くことしか出来なくて、
頬が赤くなるのを自覚する。
「…時間ある?」
「へ?…え、あぁ、うん…」
やはり俺は、頷くことしか出来なくて。
彼に連れてこられたのは、
小さな小さな公園だった。
「あの…えっと…」
「そこで聴いててよ。」
柔らかな笑みを向けられ、
不覚にも胸が高なってしまう。
