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甘く、苦く

第74章 お山【miss your voice.】session 1

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わかりやすいヤツだ。

コイツは俺に惚れてる。

目を見りゃすぐわかる。


「…ねー、名前…」

「んふふ、」


笑ってないでサーって
頬を膨らませながら、
傍らにあるイスに腰をかける。

今日も…長くなりそうだ。


俺達の会話は、
本当にしょうもなかった。


今日あったことや、
面白いと思ったこと。

大野の友達のこと。

…恋愛の、こと…。


恋愛のことになると、
大野はよく話した。


「君は好きな人とかいないの?」


…これは大野が俺に
恋してるから…聞くのか?

その瞳は一体何を求めてる…?
なぜそんな瞳で俺を見る…?


「いない。」

お前以外には。


「…ふーん、そっか。
俺はね、いるんだ。」


"それは誰だ?"

追求したくなった。


…大野は俺が好きなのに。

好きなはずなのに。

確信してるはずなのに、
なぜこんなにも気になるのだろうか?


「…誰だ?」

「んふふ、それは秘密。
言ったらつまんないでしょ。」

「特徴は?」

「んー…俺よりも背が高くて、
優しくて…何よりも、歌が上手なの。」


それは、俺よりも…なのか?


恋愛感情に近いこの気持ちは、
未だに収まることを知らない。

とくとくと早まる鼓動は
どれだ大野ことを好きか
表しているようだ。


「ふふ。でもね、この恋は叶わないんだ。」


俺がソイツなら


「それはなぜだ?
相手には大野以外の
想い人でもいるのか?」


大野の気持ちをよくわかってやれる。


「ううん。
そういうのじゃないんだけどね?
とりあえず、ダメなんだ。」


切なそうに夕暮を見つめ、
溜め息を零す。



なら。……なら。


「俺と付き合えばいいじゃないか。」

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