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甘く、苦く

第74章 お山【miss your voice.】session 1

大野side



……え?


びっくりして、
そのまま静止していたら
彼の顔がゆっくり近付いてきた。

俺が焦ってるうちに、
短いリップ音が響いた。


…夢と…現実が、交鎖してる…?

わけがわからない。

なんで?…なんでキスしてるの?



蕩けるように熱い唇が離れて、

「俺と付き合えばいいだろ。
そんなヤツより…
俺の方が大野のことを大切にできる。」


…あぁ、そうか。
この感情はきっと…。

俺をどうしようもなく
突き動かすものの正体は…。


憧れとかじゃない。


これは、立派な恋だ。

声を聴いた時から、
俺はこの恋に堕ちていたんだ。


「なぁ…ダメか?」


悲しそうな瞳と、
透き通るような声にはっとして、
息が詰まる。

ダメなわけない、だけど…。

臆病な俺は、
その次の言葉を発することが出来ない。


「大野…っ」


ぐっと頭を抱き寄せられ、
彼の胸に顔がつく。

シトラスのいい香りが
鼻を掠めた。


…うそっ…抱き締められてる…!?


「大野、お前じゃなきゃ…
俺がダメなんだ…。

惹かれてたのは間違いなく俺の方だ…」

「っ…」


長い腕に力いっぱい抱き締められ、
鼓動が早くなる。

行き場のない俺の手が宙を仰ぐ。


"彼を抱き締めたい"


…俺の気持ちが、
嘘ではなければ……。


「っ…!」


俺を抱き締める腕が
より強くなり、
俺もそれに合わせて
強く抱き締め返した。

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