
甘く、苦く
第74章 お山【miss your voice.】session 1
目が合えば
恥じらいの笑みを浮かべた
彼が俺の手を握ってくれた。
優しく包まれた手から伝わる
愛しさや、
絡む指先が大切さを教える。
「…そうだ。名前…。」
「あー、教えてなかったね。」
彼は咳払いをしてから、
俺の瞳を見て、
「翔って呼んで。
俺の本名。」
「翔、くん…って言うの?」
「うん、そうだよ。
…あのさ、前と同じように、
俺のことは誰にも話さないで欲しい。」
なんでだろう?
いつも思うのに、
俺はそれを口にできない。
口にしてしまったら、
いけない気がするから。
そしていつも問う前に、
彼が何かを言うから。
…どうでもいいや。
そんなの。
彼と…翔くんと一緒に
いられるなら、
そんなことはどうでもいい。
それでいいんだ。
