
甘く、苦く
第74章 お山【miss your voice.】session 1
放課後。
ニノはどうしても
三人で帰りたいって言ったから、
今日くらいは、と思って。
「ごめん、先下駄箱行ってて?
忘れ物した!」
「え、ついてくよ?」
「いーよいーよ。
ふたりは待ってて?」
ついてこようとするニノを
雅紀の方へ押して、
俺は隣のクラスまでダッシュ。
…ごめん、翔くん。
「っあ、翔くん!」
「…大野っ」
ぱあっと顔を輝かせて、
俺に微笑みかける翔くん。
…やっぱり、好きだ。
イスに座ってるからか、
いつもより背丈が低く、
俺を見上げる形になっている。
翔くんの上目遣いにドキドキしながら、
話を切り出す。
「今日、用事があって、
もう帰んなきゃいけないんだ、
ごめんね。」
翔くんは一瞬だけ、
悲しそうな顔をして、
でも、すぐに
「そっか。…じゃあまた明日。」
って、柔らかい笑みを
俺に向けてくれた。
「うんっ、また明日ね!」
「大野、」
「うん?…んぅっ、」
唇を押し付けられて、
変な声が出た。
唇が離れたあとは、
どちらも無言で。
そのまま見つめ合ってたけど、
恥ずかしくなってきちゃったから、
目線を逸らした。
「翔くん、俺、時間だから…」
「…うん、でも…」
『やっぱり寂しい。』
…だなんて。
そんなの、
そんな顔して言わないでよ。
卑怯だよ、翔くん…。
