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甘く、苦く

第74章 お山【miss your voice.】session 1






俺はたくさんアイツを傷付けた。

なんで理解してくれないのか、
なんで協力してくれないのか。

俺の個人的な常識ばかりを押し付け、
アイツを苦しめた。

でも、いつもアイツは笑顔で、
俺のことが好きだと言ってくれた。

それは決して嘘ではなかった。

時には、納得のいかなそうな顔で
生返事を返すこともあった。

俺はそれでも構わなかった。


ただ、俺のことだけを
見ていて欲しかっただけ。

傷付けたかったわけではない。

アイツのすべてを、
俺のものにしたかったんだ。


…あぁ、独占欲に塗れた
汚いヤツだ。


あの日もこんなふうに
雨が降っていた。

俺なその日もアイツを困らせて、
悲しそうな顔をさせた。


『俺達は男同士だけど、
好きなら付き合うのって
別にいいんじゃないの?』


アイツはそう言ってた。
でも、俺は違かった。

いつも周りの目ばかりを気にして
他人からの評価を
少しでもよくしようとして…。

でも人間ってそんなもんだと思う。


だって俺も、
そういうめんどくさい人間だから。


でもアイツは違かった。

『好きだから一緒にいたい。』

と。


最後の最後まで、
俺に言ってくれた。

…俺の手を力なく握って。


事故に遭ったのは、
アイツだけじゃない。

だけど、死んだのはアイツだけだ。


急にブレーキがきかなくなった?
そんなのおかしいだろ。

ろくにメンテナンスもしてない車で
走っているからだろうが。


俺は怒りをどこにぶつけたら
いいのかわからず、
ひとり、自分の失態を
悔やみ続けるだけだった。

俺があの時、
ぼーっと歩いていなかったら
アイツは死ななかったのに。

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