
甘く、苦く
第74章 お山【miss your voice.】session 1
でも大野と雅紀を
比べたところで何も変わらない。
「……あ、」
これ、まさか大野の…?
落ちているくしゃくしゃの
ハンカチを拾い上げる。
…名前、なんて高校生にでもなったら
書かないだろうし…。
だからといって、
放っておくのも可哀想だ。
「(どうすっかこれ。)」
頭を働かせてみるけど、
いい案は思い付かない。
まず大野の家は知らないし、
行ったところで持ち主が
大野じゃなかったら…。
俺とんだ迷惑なヤツだ。
…いやでも、聞くだけ聞いてみる、とか。
いや、明日でもいいか。
ハンカチくらい、
きっと持ってるだろうし。
…それに、これで明日大野に会う
口実だってできたんだから。
大野はきっと、来てくれる。
あのふわりとした笑顔を
浮かべながら、
「遅くなっちゃったぁ」
なんて頬をかきながら。
…いい加減、
俺の良心が痛んできたが
それでもまだ…。
もう少しだけ、
俺の我儘に付き合ってほしいから。
もう少しだけ、
大野のそばにいさせて。
俺の体は、夕闇へと溶けていく。
