甘く、苦く
第77章 大宮【立ち入り禁止】
素直な気持ちがいつも伝えられないから。
今日くらいは、伝えたっていいかな。
…引かれない、かな。
「大野さん、」
「ん?」
「背中にホコリついてる。」
とってあげる。と手を伸ばして、
背中に触れる。
柔らかい顔とは対照的に、
男らしいこの背中も俺好みだ。
つつーっとなぞれば、
「お前ワザとやってるだろ笑」なんて
楽しそうな声が前から聞こえてくる。
「…ふふ。」
「あーもう、擽ってぇから…」
身を捩って俺の指から逃げようとする。
その間も背中をツンツンしたり、
ちょっとくすぐってみたり。
「も、やめろって。」
「…ふふ、大野さん好きだよ。」
直接顔を見て言ってなんて、あげない。
だって、大野さんだって
言ってくれないもん。
「あ、お前ずりぃぞ。」
「…え?」
気付けば大野さんの顔が目の前にあって。
動揺している俺に優しくキスをしてきた。
「…へへ、顔赤いな。」
「ぅ、うるさい…」
ぷいっと顔を背ければ、
「こっち向いて。」
なんて優しい声がするから。
仕方なく、そう。仕方なく向いてあげる。
「俺もお前のこと好きだよ。」
「…………うん。」
俺が素直になれば、
大野さんもちゃんと言ってくれる。
わかっているのに、
普段はなかなかできないんだ。