甘く、苦く
第77章 大宮【立ち入り禁止】
俺の気持ちなんて、知ってるくせに。
知ってるから大野さんは鈍いフリするんだ。
「好き。」
「んー、俺も好き。」
「……知ってる。」
「じゃあなんで聞いたんだよ笑」
「聞いてないよ、伝えただけ。」
「へいへい…笑」
めんどくさい。
なんて一言も言わない。
そんな気遣いさえも、嬉しい。
俺だけの、特別なもの。
「そろそろ行く?」
「…うん。」
大野さんがふわーっと欠伸して、
ん、て手を出してくれる。
「…なに?」
「手」
「…だからなに。」
「出せっての、ほら。」
手を掴まれてゆっくりと引かれる。
「ほら、準備出来てるでしょ。
もう行こ?」
「………うん。」
繋がったままの右手を見て、
少しだけ頬が緩んだのは、内緒だよ?