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甘く、苦く

第86章 お山【レオナルド・ダ・ヴィンチ】




彼の姿を見て、
はっと思い出した。

「君って、あの、
レオナルド・ダ・ヴィンチみたいだね。」

俺の言葉に、
ようやく反応して。


「何が言いたいの?」
と、睨み付けられた。


「ほら、レオナルド・ダ・ヴィンチって、
筆が遅いことで有名でしょ?
一筆入れたら、描きかけの絵を眺めて、
また一筆入れたら、眺めて…って。

なんだか、今の君みたいだ。」


俺なりに絞り出した雑学。

わかりやすいように伝えようとも、
どうも上手くいかなかった。


「…そうかな。
俺にはあんな絵描けないよ。」

ふっと溜め息。
俺を睨み付けていた目が、
いつの間にか下がっていて。

ふにゃん、とした
子供のような笑みを見せて。

「アンタ、面白いね。」

そうさっきとは真逆の
透き通った声で言われた。


どき、と胸が跳ねた。


「…ありがとう。」
「褒めてないけど。」
「知ってる。」


ふふ、とふたりで顔を見合わせて笑う。
そのあと、彼は「あ、」と呟き。


「俺、2年C組の大野智。
よろしく。」

すっと差し出された手を握って。

「俺は2年E組の櫻井翔。
よろしくな。」

躊躇いがちに、
ふたりともお互いの顔を見た。

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