
甘く、苦く
第86章 お山【レオナルド・ダ・ヴィンチ】
それからというもの、
毎日昼休みには
彼がいる美術室を訪れた。
「今日はカレーパン売ってなかったよ。」
「そっか、残念だ。」
「その代わりの焼きそばパンね。」
「お、珍し。
翔ちゃんすごいねぇ。」
パシリ?
いや、違う。
俺が好きでやってる事だから。
ふわりと柔らかい笑みを零す目の前の彼。
その微笑みに、ドキンと胸が跳ねた。
…そう。
最近の俺はなんだかおかしいんだ。
笑っている大野を見ると、
動悸が激しくなる。
「ん?どおしたの?」
パンを頬張りながら、
目を細めて俺を見る。
その顔も、俺は弱い。
「…なんでもない。
大野が間抜けな顔してるなと思って。」
「ええ、翔ちゃんひどいよ。」
少し唇を尖らせて、眉を下げる。
…あぁ。
「絵の進み具合、どう?」
繋がりが欲しくて、大野に話しかけた。
「んー、普通?笑
文化祭までに終わらせなきゃね。」
「あと二週間じゃん。完成するの?」
「絵に完成はないと思うよ、俺。」
「…大野のくせにいいこと言うな。」
「それバカにしてるの?
褒めてるの?」
不服そうに俺を見つめてから、
またキャンバスに向き直る。
猫背気味の彼の背中は、
少し寒そうに見えた。
「…大野、」
「ん?…わっ、」
来ていたカーディガンを
大野に放り投げた。
「暖房ついてないし、寒いだろ。
着てろよ。」
「えっ、絵の具、ついちゃうよ?」
「洗えば落ちる。
風邪引いたら困るだろ。」
「翔ちゃんだって…」
「俺は大丈夫だよ。」
半強制的に大野にカーディガンを
着せたけれど。
サイズが合っていないのか、
ぶかぶかだった。
「いい匂いするぅ」
「…あっそ」
そんな笑顔で、
そういう破壊力のある言葉を
突然言わないでくれ。
動揺するだろ。
