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甘く、苦く

第86章 お山【レオナルド・ダ・ヴィンチ】



もやもやした気持ちのまま、
いつの間にか文化祭になっていた。

あの日から、美術室に
足を運ぶことは少なくなった。

大野とも、あまり会わなくなった。

会わない日が、一日一日と増えていき、
いつの間にか文化祭になっちまったんだ。

結局あの絵は、完成したんだろうか。

『絵に完成はないと思うよ。』

ふいに、大野の言葉を思い出した。

あの笑顔は、あの声は。

きゅ、と胸が締め付けられて、
目頭が熱くなった。

…バカか、俺は。


部活の仲間といるのも疲れて、
うるさい体育館から出た。

ふらふらとあてもなく校舎内を歩いた。




「…え?」


ぐいっと裾を引っ張られて、
後ろを見れば。

見覚えのある、
ふわふわとした髪の毛。


「…翔ちゃん、来て。」


初めて聞いた、低い声。

でも、表情は明るくて、
いつもの笑みを浮かべていた。


「美術部の展示、来てよ。」


ね?と、首を傾げて
俺の弱いふんわり笑顔で笑う。


「…行く。」


大野の隣を歩くのは、
ひさしぶりだ。

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