テキストサイズ

甘く、苦く

第86章 お山【レオナルド・ダ・ヴィンチ】


大野side


俺、翔ちゃんになにかしたかな。

あの日からパッタリ美術室に
来てくれなくなったんだ。

なぜだか分からないけど、
描き途中の絵は描き続けられなくて。

翔ちゃんのことをただひたすら想っていた。


「…あ、」


翔ちゃんを探していたわけじゃない。
だけど、ひとりでふらふらとしていたから。

…なんてウソ。

本当は校舎内を歩き回って
ずっとずっと探していた。

美術部の店番なんて放って。


「美術部の展示、来てよ。」


俺、どうしても翔ちゃんに
見てほしい絵があるんだ。

なんて言えないよ。


・・・


「…これ?」

「うん、そう。」

「描いてた絵と違くない?」

「……うん。」


『未完成』と名付けたソレは、
俺が二週間翔ちゃんを想い続けて描いた作品。

絵に完成はないと。

そう思っていたけれど。


「…この絵はね、」

「ん?」

「もう、“完成”してるんだ。」

「え?完成はないんじゃないの?」

「…ううん。」


俯いて、首を振った。

それから一呼吸置いて、
翔ちゃんを見つめた。

翔ちゃんは動揺していたけど、
そんなの気にしていられない。


「この絵はね、翔ちゃんに見てもらったから
もう“完成”したんだよ。」


俺がそう言って笑えば、
最初はわけがわからない、と
いう顔をしていた翔ちゃん。

だけど、「そういうこと…」と呟いてから。


「あー、もう…」


頭をぐしゃぐしゃと崩して
俺を見つめた。

「…ごめん、」

「え?」

翔ちゃんが俺に頭を下げている。

「そ、そんなつもりで…」

「いや、あの。
俺が勘違いしてただけだから。」

…わけがわからない。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ