
甘く、苦く
第86章 お山【レオナルド・ダ・ヴィンチ】
俺が戸惑っていると、
翔ちゃんの腕が伸びてきて。
「ぅえっ?」
ぎゅううっと苦しいくらいに
抱き締められた。
はあ、と耳元で翔ちゃんの
余裕のない声が聞こえてくる。
甘ったるい、熱っぽい声。
その声にドキドキして、
しばらく黙っていた。
そしたら、「…ねぇ」と
また余裕のなさそうな声がした。
俯いてばかりで、
目線もろくに合わせられないけど。
「うん、」
ようやく絞り出した声は、
ひどく震えていて。
しかもいつもより上擦っている。
恥ずかしくなって、
顔が熱いのがわかってしまう。
鼓動の速さが、
伝わってしまいそうで。
このうるさいくらいに跳ねた音が、
伝わってしまうんじゃないかって。
「…こっち見てよ、」
ぐいっと頬を持たれて、
無理やり上に向かされた。
翔ちゃんの瞳は少し潤んでいて、
頬は紅潮していた。
そんな、初めて見る翔ちゃんの表情。
息が詰まりそうになるほど
顔が近くにある。
…詰まりそうっていうか、
もう息できなさそう。
「ぷっ、」
「…へ?」
恐る恐る上を見れば、
翔ちゃんが笑っていた。
「その顔、面白すぎ笑」
「…もっ、もー!」
ぺし、と翔ちゃんを叩いて、
背中を向けた。
