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甘く、苦く

第86章 お山【レオナルド・ダ・ヴィンチ】



焦って、
ぱっと手を離してしまった。

「ンフッフフフ、」

変な笑い方をする大野。

口元に手を当てて、
女子みたいな笑い方だ。

でも、そんな一つ一つの仕草も
俺は大好きだから。

「…あ、みて。」

美術室から出て、
大野が中庭を指さした。

「…バルーンアート?」

「そう、あれも美術部がやってるんだよ。
翔くんは興味無いかなぁ?」

誇らしげに言ってから、
上目遣い気味に俺を見た。

行きたいんだろうか。

「…行ってみる?」

「っ、うん!」

嬉しそうに返事をしてから。

俺の手を取り足早に歩いた。


普段は人がいないこの美術室付近。

でも今日は文化祭。

人が溢れかえっている。


「あ、ちょ、」


大野の手を離さないように
力をいれた。

大野は時折こちらを振り向き、
ふわん、と微笑んだ。

その度周囲からは変な目で見られたけれど、
あまり意識はしていなかった。

「…大野?」

急に立ち止まった大野。

踊り場の壁に寄りかかって、
ふー、と息を吐く。

「人、多くて疲れちゃった。」

と、苦笑いをした。

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