
甘く、苦く
第86章 お山【レオナルド・ダ・ヴィンチ】
大野side
調子乗って、
はしゃぎ過ぎちゃったかな。
「あー、やばい。」
翔ちゃんの体に寄りかかって、
ふう、と吐息を漏らした。
「…大野?」
「ちょっと、疲れたかも…。」
「…中庭行くのやめる?」
「…うん、ごめん、」
よしよし、と頭を撫でられて、
腕を引かれた。
びっくりして見上げれば、
「ついてきてよ」と
翔ちゃんの目が言ってる気がして。
何も言わずに、
翔ちゃんの背中を見つめていた。
「…なんでまた、ここに…」
戻ってきたのは、
思った通り美術室だった。
溜め息が出そうになったけど、
翔ちゃんなりになにか考えてあるんだろう。
「ここなら大野が落ち着けると
思ったんだけど。
…そんなことない?」
苦笑してから、
俺の頭を撫でた。
「また、絵描いてよ。
ほら、あの、あれ。」
「うん?」
「レオナルド・ダ・ヴィンチ。」
「…あぁ。」
結局完成しなかった絵のことか。
美術準備室から
A4のリングノートを取り出して
パラパラとページを捲る。
「…あ、俺これ好き。」
「わっ、」
知らないうちに、
美術準備室に翔ちゃんが来てた。
「やだよ、こんな下手なの。
翔ちゃんって、センスないね。」
「んだと。
普通にうまいと思うけど。」
最後の方のページに、
お目当ての絵はあった。
「…あ、やっぱこっちのが好き。」
「ええ、そう?
俺途中で描けなくて…」
「絵には完成ないんだし、
別にいーんじゃない?」
「……」
ね?と俺に向かって微笑み、
左後方からリングノートを閉じる翔ちゃん。
描いてって言ったくせに、
随分と身勝手だ。
「…ん、」
リングノートを手にして、
そのノートに視線を落とした。
…もうこのノートも、
終わっちゃうんだよな。
