甘く、苦く
第87章 にのあい【この距離がどうにかならないかな】
翌朝、目が覚めれば
隣にいる相葉さんはいない。
…いつものことだ。
「…何してるの?」
キッチンに佇む大きな背中に
声をかける。
「んー?減ったなぁ、と思って」
「…何が?」
「砂糖とか塩とか」
文句か?と思いきや、
声を弾ませて。
「ひとりの時は全然減らなかったからさ。
あ、一緒に暮らしてんだっ、て」
なんて頬を緩ませる相葉さんは、
昨夜の男らしさはなく、
ただひたすら可愛かった。
「…一緒に暮らしてないけどね」
そう悪態をつけば、
相葉さんは困ったような顔をして。
「そっかぁ」
と。
…なんで、そんな悲しそうな顔するのに、
俺にはなんの言葉もかけてくれないの?
滲む景色を見たくなくて、
キッチンから飛び出した。
やだ、やだ、やだ…
これ以上、傷付くのは───…
「っ、」
洗面台の鏡に映る自分が、
すごく醜く見えて。
この顔も、手も、腕も、
何もかも。
昨夜、相葉さんに愛された場所だ…
「ぅ、」
吐き気がして、
咄嗟に口を押さえた。
気持ち悪い…
ここに、いたくない…
「ニノ…?」
貴方の顔も、今は───…
「…ごめん、」
俺へと向けた腕を拒絶して、
その横をすり抜けた。
「え?ニノ?」
「帰る…」
嫌だ。
もう俺の名前を、呼ばないで。