甘く、苦く
第87章 にのあい【この距離がどうにかならないかな】
相葉side
ニノのことなら、
全て知っているつもりだった。
いつも一緒に笑ったり、泣いたり、
メールも数え切れないくらい送って、
時間を忘れて電話をしていた。
だけど今、
がらんとした部屋に残されていたのは
『さよなら』と書かれた紙切れだけで。
俺は初めてその時、
ニノがこんなにも綺麗な字を
書くんだと知った。
「…なんで、」
発した言葉への返事はない。
当たり前だ。
電話をかけようと思って、
ポケットからスマホを取り出す。
頼む、出てくれ…
『おかけになった電話番号は──…』
無機質な声だけが、
耳元に響いた。
今朝のニノは、おかしかった。
何かを悟ったような顔で、
何かを決断したような顔をしていた。
まさか、本当にニノは…
『会って話しがしたい』
そう送っても、
いつもはすぐに既読がつくのに、
全く既読にならない。
「ニノ…」
ひとり、取り残されたこの部屋で、
喪失感だけが残る。