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甘く、苦く

第87章 にのあい【この距離がどうにかならないかな】



今すぐ抱きしめたい、
という衝動に駆られたけれど、
誰かに見られたらまずい、
という理性。


下を向いて泣き続けるニノに、
俺は何も出来ずにいる。

…だめだ、こんなの。

男を、見せなきゃ。


「…っ、ニノ、違うっ…」


ホテルの廊下だってことを忘れて、
抱きしめてしまった。

俺の胸でただ涙を流すニノを、
抱きしめることしか出来ない。


「ごめん、ごめんね…」


ニノの顔を持ち上げて、
濡れたまぶたを指で優しくなぞる。


「や、めろ…」


ふいっと顔を逸らすニノ。


「もう、辛いのは、いやだ…」


ぽつりと、零したニノの本音。


「もう、やなの…だから、」

「ニノ…!」



これ以上は、
喋らせちゃいけない。

そう思って、ニノを
無理やり俺の部屋に入れた。

嫌がる素振りを見せていたけど、
そんなの気にしていられなかった。


ニノをベッドに押し倒して、
強引にキスをした。

「ぁ、ん」


後ろで、ぱたん、とドアの閉まる音がした。

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