
甘く、苦く
第88章 大宮【In Fact.】
カズよりも先に、
寝室へ向かおうとした。
途中まで歩いて、ふと思い出した。
携帯をソファーの上に
置いたままにしていた。
…充電しないと。
そう思ってリビングに引き返した。
「…よかった…」
ぽつりと聞こえたカズの声。
何が何だかわからなくて、
でも、今入ったらまずい気がして。
ちらっとリビングの中を覗けば、
俺の携帯を片手に、
ソファーに腰掛けていた。
「カズ」
声をかければ、肩を大きく動かして
潤んだ瞳を向けてきた。
「カズ、何してんの」
何をしていたかなんて、
知っているけど。
カズの口から、
直接聞きたかったんだ。
「あの…えと…」
言いづらそうに、
口をむにむにと動かして
俺と目を合わせようとしない。
…ウソをつくのが得意なカズが
こんなにも動揺しているなんて。
「なに?
俺に言えないようなこと?
俺のスマホ弄ってさ」
ぐっと距離を詰めて、
カズの両頬を包み込んだ。
潤んだ瞳を俺に向けて、
申し訳なさそうに口を開いた。
