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甘く、苦く

第89章 翔潤【純粋に】



「翔さん、これ、自信作なんだ」


そう言って潤が出してきたのは、
鶏肉のトマト煮だった。


「うまそう…」

「ほら、寒いからさ?
あったかいものがいいかなって」


はい、と差し出された皿を受け取り、
赤いスープに浮かぶバジルを見つめた。

…彩りも申し分ない。

そして、味も。


「ん、うまいよ。ありがとう」

「そう?よかった。また作るね」

「あぁ、ヨロシク」


俺も食べよーと、潤が正面に座る。


「食ってなかったのか」

「うん」

だって、
と潤が続ける。

「今週初めてだよ。
顔合わせて食べるの」

と。

「そうか…そういえばそうだったな」

「もー、やだなぁ」

翔さんのバカ、と頬を膨らませてしまった。


そうか。

寂しい思いを、させてしまっていたんだ。


「ごめんな。
出来るだけ早く帰ってくるから…」

「いや、そういうのじゃないよ?」

「だって、そういうことじゃないか」

「違うよ…」


また、だ。

やっぱり、お互い不満を溜めてしまって、
面と向かって話せなくなっているんだ。

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