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甘く、苦く

第89章 翔潤【純粋に】


松本side


離れた唇が寂しくて、
もう一度キスをしようと首を傾けた。


「……翔さん?」

「…だめ」

「え?」

「おっお風呂、入ってくるから!」


有無を言わせぬ速さで
俺の腕から逃げて、
バスルームに駆け込んでしまった翔さん。

…なんだ。

結局、俺が本音を漏らしたって、
翔さんは自分中心なんだ。

…って、ただ単純に、
汗臭いままなのが嫌だったのかな。


「…洗い物、するかぁ」


ザーザーとシンクに水が滴り、
泡が流されていく。

それを見るだけで、
なんだか心が落ち着いた。


「…あ、そうだ」


今日、持ち帰りの仕事があるんだった。

翔さんはきっと、
まだ出てこないだろうし。


「よっ、と…」


USBを取り出して、
パソコンに挿し込んだ。

そういえば今日は、
随分二宮先輩に怒られたなぁ。

雰囲気が弛んでるとか、
誤字が多いとか。
何をして欲しいのか具体的に書かないと
取引先にはわからないとか。

基本的なことばかりなのに、
なんで俺はできないんだろう。

なんて凹んでた。

でも、翔さんは俺の仕事には
全く口を出してこない。

同じ部署にして、
すぐ近くのデスクなのに。

近くといっても、
通路を挟んじゃってるんだけど。

…また教えてもらおうかな。

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